〜月齢7〜

 アーウィングが行方不明になって一月が過ぎた。
 表向きは視察が継続されているように見せかけていた。
 しかし、この様な状態を続けるのは不可能な話だ。
 どこから話が漏れるとも限らない。密かに捜索隊を派遣する事が決定した。
「あいつもバカだよな。連絡くらいしろっての!
まぁ、兄貴がついてるから命の心配はしてねぇけど…」
 ふらりと城に立ち寄った騎士の資格を持つ青年は、
 行方不明になっているアーウィングの乳兄弟の一人。
 名をフェンネル=アキレアといい、シレネのすぐ上の兄だ。
「フェンネルお兄様!女王の前で、失礼ですわ!」
 シレネが綺麗な眉を寄せる。
「いいのよ。こんな風にくだけて話をしてくれる人、
今まで周りにいなかったから…何だか新鮮だわ」
「アーウィングは俺の弟で親友なんだ。
その奥さんに気取った態度をとるなんて、そんなの変だもんな。
話がわかるお姫サンで良かったよ」
 フェンネルは笑う。
「ただ、心配してないっていうと嘘になるから話すけど、
アーウィングが視察に行った先の事なんだが…どうやら魔族が出たらしい。
街道を通る商人からその話を聞いたんだ。
魔族が襲ってきたっていう場所は、視察先と近い位置にあるし、時期もほぼ重なってる。
まさかとは思うけどな…」
 リディアの顔が蒼くなる。すかさずシレネがフェンネルを叱責する。
「どうしてそんな無神経な事を言えるのです!」
「それは…そうだけど、俺の言いたい事はそうじゃなくて!
ちゃんと確かめようって言いたかったんだよ!」
 フェンネルが取り出したのは地図だった。
「ここ、ここがウワサの発信源であるアレグロの街。そして、魔族が出たらしい場所は…」
 そこから少し北上した場所を指差す。
「ここはそこそこの山になってて、谷とかもあって道が悪い。
でも、視察先のユヴェールに行こうと思ったらここを通る必要がある。
魔族に出くわした可能性もある。とにかく、確証はないんだから悲観する事はないんだ。
逆にいうと、魔族が出ると分かっている場所にアイツを行かせるはずない。
ウワサが消えたり、もしくは退治されたって知らせが入るまでは無事だと思っていいんじゃないか?
ユヴェールで足止め食ってる可能性だって十分考えられるだろ?」
 リディアは、心が軽くなった気がした。
 何故、自分は悪い方にばかり考えていたのだろう。まだ何も始まっていない。
「アーウィングの事、信じてやって?
俺がアイツを探して、連れ戻してくるからさ?」
 フェンネルの言葉に素直に頷く。
「待つわ…信じて待ちます。まだ何も伝えてないもの。
このまま会えないなんて嫌だもの。約束だって、まだ叶えられてないのよ。だから…」
 感情を隠さないリディアを見て、フェンネルは嬉しそうに目を細める。
「私をもう一度アーウィングに会わせて!」
「承知!」
 フェンネルは、騎士らしく礼をして部屋を出た。
「失礼な兄で申し訳ありません…
でも、アーウィング様への忠誠心と行動力の高さだけは保証いたしますわ…」
 シレネが微笑みをうかべる。
「ええ、アーウィングは良い友達を持って幸せだわ…」

黄金の月・へ続く。